インストラクションの目的

「インストラクションの原理」からインストラクションの目的とその定義について引用します。このまえがき以上に、インストラクションの原理を概説的に説明することは不可能だろうと思います。IDについて何か考えるとき、まず軸足を確認するためにこの文を読むことにしています。

引用元
R.M.ガニェ、W.W.ウェイジャー、K.C.ゴラス、J.M.ケラー/鈴木克明・岩崎信(監訳).(2007).インストラクショナルデザインの原理.京都.北大路書房.
第1部 教育システム序論
第1章 インストラクショナルデザイン序論

インストラクションの目的は、人々の学習を助けることにある。学習はインストラクションなしで成立するだろうか? もちろん成立する。私たちは、自分たちを取り巻く環境とそこで生起する事柄と常に出会い、そしてそれを解釈している。学習とはそのような自然のプロセスであり、学習することによって私たちが知っていること・できること・行動の方法などを変化させている。一方で、教育システムの目的の1つに、意図的な学習を支援することがある。おそらくインストラクションなしでは達成するのにとても長い時間がかかってしまう多くの目的を達成するための支援である。学校では、コミュニティが必要であると認める知識やスキルを教える。たとえそれがそれらが学習者にとってすぐに興味が持てないことだったり、学校以外の環境では自然に出会わないようなことことであっても教えている。本書の目的は、意図的な学習のためのインストラクションを効果的にデザインする上で、学習の原理がどのように役立つかを述べることにある。

私たちはインストラクションを「学習を支援する目的的(purposeful)な活動を構成する事象の集合体」と定義する。通常それらの事象は例えば印刷されたテキストやインストラクターによる講義、あるいは学習者グループの活動などの学習者の外側にあるものだと考える。しかし注意を向けるとか、リハーサルをする、振り返り(リフレクション)をする、進捗をモニターするなど、学習者の内側に起きる事象も含まれている。教育心理学者は、これらの内側の事象を仮説として取り上げモデル化して、学習過程についての原理を導き出してきた。インストラクショナルデザイナーは、これらの原理を外側の事象をデザインするために応用する。それをインストラクションと私たちは呼ぶ。たとえば、短期記憶は容量が限られているという原理は、一般的に受け入れられている。その原理をもとにして、提示する情報を小さいまとまりに分けたり、分類したりすると、学習しやすくなることがわかっている。

では、なぜインストラクションであってティーチング(教えること)ではないのか。それは、ティーチングはインストラクションの一部にすぎないからである。教えるということは、学習者に向かって誰かが講義をしたり実演したりすること示唆する。しかし、教師あるいは研修担当者の役割は、教えること以外のさまざまなことを含む。たとえば、教材を選択する、学習者の準備状態を見極める、クラスの時間進行を管理する、教育内容を知っている人、あるいは学習の支援者として役割を果たすことなどがある。そこで、より広範囲の意味を含むインストラクション(instruction)という言葉を用いることで、学習者を支援するためにはさまざまな活動があることを強調したいと考えている。インストラクショナルデザイン(ID)の原理についての知識があれば、学習を手助けするためにとりうる方法について、より広範囲なイメージを持つことができる。例えば、グループ活動をさせるのが役立つときはいつか、練習とフィードバックが最も効果的なのはいつか、問題解決や高次の学習スキルの基礎となるものは何か、などである。

ID原理を応用することが役立つ人は他にいるだろうか。教材制作に携わるすべての人々、例えば教科書の執筆者、カリキュラム開発者、Web上のコース設計者、さらには知識管理システムの設計者も、ID原理を役立てることができよう。

以上まとめると、学習を支援する事象や活動に学習者を没入させるように計画すると、インストラクションは効果的になる可能性が高くなる。ID原理を用いることで、教育や研修担当者は学習の手助けとなる活動を選んだり計画開発できるのである。

 

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